続・今日もやっぱりかえる顔

なぜか巻き起こってしまうまぬけな日常を、ひらがな中心のまぬけなテイストでお届けします。ときどき乃木坂46。

「びんぼうアパートはお○け屋敷」の巻

アパート代の予算が月に
30000円だったにもかかわらず
48000円
45000円
42000円と
(今日から数字にしました。深い意味はまったくありません)
大幅に予算オーバーの
3つの物件を見に行くことになった僕は
高級車くらうんにゆられながら
おねえさんといっしょに
「ないけん」とやらにおでかけするのでした。

3つのアパートに行く車の中でも
おねえさんは親切に街の案内をしてくれました。

おねえさん「ここがディスカウントショップ」
moderate  「へえぇ。」
おねえさん「ここがスーパー、あとスーパーは
      駅前しかないからね。」
moderate  「そーですか。」

せっかくおねえさんが親切に
話しかけてくれるのに、
僕の返事はとってもそっけないものでした。

本当は僕もいろいろ聞きたかったし
教えてもらって、本当にありがたいと思ったんですよ。
しかし僕には深刻な
話ができない理由があったのです。

それはですね、
九州から上京してきたばかりの僕は
標準語を話せなかったのです。

どこの地方の言葉もそうだと思うんですが
九州弁もまた標準語とえらく違います。
だから僕が九州弁で話しかけたとしても
おねえさんはきっと意味をわかってくれないでしょう。

昔から郷に入っては郷ひろみというように
東京にきているんだから
僕が無理に標準語をしゃべれば
いいんでしょうが、
九州の人で標準語を無理に話そうとすると
決まって元マラソン選手の松野明美さんのような
いんとねーしょんになってしまいます。

あの独特のイントネーションというのは
九州弁でも使わないんですよ。

だけど九州の人が
標準語を無理に話そうとすると
標準語でも、九州弁でも
どちらでもないイントネーションの言葉になってしまうんですよ。
ふしぎなことに。

その状態はなんとしても
さけなければいけません。
いなかっぺまるだしです。

いなかっぺと言えば
いなかっぺ大将という
古いマンガの主人公
風大左右衛門(かぜだいざえもん)は
聞くところによると熊本の出身らしいです。
僕と一緒なんですね。
ってことは僕も例にもれず
いなかっぺ大将と言う論理が簡単に成り立ちます。

僕がいなかっぺ大将だそうです。
わっはっはっはっは。
笑ってしまいます。
いえ、いえ、のんきに笑っている場合ではありません。
僕がいなかっぺ大将なことは
他の人に知られては絶対にいけません。
知られるととってもはずかしいです。
マル秘の最重要機密事項です。

だからできるだけ
言葉を発することのないように努力をしていたんですよ。
べつにお姉さんに対して
つんけんしたかったわけではないんですよ。
ましてやお高くとまって
話さなかったわけでもなく
おねえさんの問いかけにたいしても
僕がいなかっぺ大将だということをさとられないために
話すことがせなかったってことが
ほんとのところであります。

僕があんまり話さなくても
おねえさんはとってもお話好きの人で
ひとしきりこの町のことや、
自分のことまでいろいろと
話をしてくれていました。

そのうち高級車くらうんは
アパート1に到着しました。
アパート1は48000円の物件です。

アパート1の外見は
とってもさびれたアパートでした。
壁がところどころ黒ずんでいて
どう見ても昭和40年代くらいにたてられたような
アパートでした。

僕はその黒づんだ壁を見て
思いっきりひいてしまったのですが、
僕の思いを知ってか知らずか
おねえさんはまったくひくような気配もなく
ずんずん部屋の中へと入っていきました。

おねえさんがアパート1の玄関の前に来ると
玄関はすぐに開きました。
大家さんが鍵を開けておいてくれたみたいです。

「どうぞ、どうぞ。」と
おねえさんにすすめられるまま
部屋の中にはいると
部屋の中は真っ暗でした。
日あたりがかなり悪いようです。
そういわれてみると
部屋の中がじめじめしています。

おねえさんは暗い部屋でも
まったく気にするところはなく
蛍光灯に手を伸ばし
蛍光灯にたれている糸のスイッチをひきました。
「ぱちり」と。

まわりは確かに明るくなりましたが
明るくなってまたまたびっくりです。

まずおねえさんがスイッチを入れたのは
これまで蛍光灯だと思っていましたが
ところがどっこい
蛍光灯ではありませんでした。
見たこともないようなトタンの
まーるいかさをかぶった白熱灯です。

こんな白熱灯に東京で出会えるとは
思っても見ませんでした。
僕もはじめて見るタイプの
白熱灯でした。

これをその道のおえらーい人のところへ報告すると
きっと天然記念物に指定されるであろうくらいの
めずらしさです。

アパート1を昭和40年代くらいの建物と
表現しましたが
ありゃあまちがっておりました。
きっと昭和30年代の
僕よりもずっと年上の建物のようです。
僕はおどろいて、あんまりしゃべれない上に
声まで出なくなってしまいました。

もうひとつさっきから気になっているものがあります。
それはふすまと障子です。

全ての部屋のしきりと押し入れが
ふすまと障子になっているんですが
相当昔のものようで
描いてある柄といい、色かげんといい
とってもいい感じの
こわさを演出しています。

お化け屋敷に行ったときに
和物のふすまや障子ががよごれて破れていたりするでしょう。
ちょうどあんな感じを想像してもらえれば
現物に近いと思います。
暗さけっこうお○け屋敷っぽくなっています。

みなさんはこんなお○けアパートに住むことができるでしょうか?
いくら貧乏とはいえ、僕には無理です。
そう判断したまさにその瞬間
おねえさんは僕に意外なことを語りかけました。

「このお値段で2部屋あるのはとってもお安いんですよ。
 ここに決めたらどうですか?」

僕は耳を疑いました。
おねえさんの発言から想像するに
おねえさんの標準語を即座に僕の頭の中で
九州弁に翻訳しますと
ここに住めって意味でしょうか?
残念ながらそれはできないことです。

標準語を九州弁に翻訳したところ
まったくまったく変わっていないことにも
気がつかないほど
おどろいてしまいました。

おねえさんは人ごとだからそんなことを言えるんですよ。
そう言うんだったら自分で住んでみてくださいよ。
おねえさんが住んでみて、
お○けが出てこなかった場合に限り
僕が住んであげますよ。

ただしその可能性が限りなく0に近いことは
そう思っている僕ののそばの
天然記念物白熱灯と
お○け屋敷のふすまと障子が
静かにものがたっていましたけどね。

標準語がまだしゃべれないので
できるだけ話したくないのですが
ここに住まわされるよりましです。
おねえさんにこのアパート(命名 お○屋敷)に
住みたくない意思表示をしなければなりません。

「ちょっと光がたりないので。・・・」
と本当のお○け屋敷の理由をかくして
べつにどーでもいいことを理由にして
そのお○け屋敷の物件は
ていちょうにお断りするのでした。

一方このお○け屋敷をすすめていたおねえさんは
「あら、ざんねんね」ぐらい言うんじゃないかと思っていたのですが
人におば○屋敷を進めたにもかかわらず
残念そうなそぶりもなく
「そうね、ここちょっと気味悪いね」と
的を得た意見を言っていました。

だったらこんなところをすすめないでくださいよ。
と言いたいところをぐっとこらえ
力なくへらへらと笑うしかありませんでした。

1件目にしてぐったりつかれた僕とは対照的に
おねえさんはとっても元気で、
「じゃあ次は2件目ね」と
さっそうと高級車くらうんに乗り込むのでした。

一方僕は「はい」と小さく返事をして
力なく高級車くらうんに乗り込むのでした。
次はどんなおばけ屋敷に連れていかれるのか
はたまた次はジェットコースターなのか
考える余裕もなく
高級車くらうんはすべりだすのでした。

おねえさんは
けっこうすぴーどだすのねと
今さらながらはじめて気がつくのでした。