続・今日もやっぱりかえる顔

なぜか巻き起こってしまうまぬけな日常を、ひらがな中心のまぬけなテイストでお届けします。ときどき乃木坂46。

「出会いはスローモーション」の巻

9月のある日のことでした。 

僕はいつものようにバイクで出勤をしておりました。 

アメリカンタイプのシャドーというバイクで 
ステップをつけたり、ライトを3つに増やしたり、 
マフラーの形状を変えたりと 
自慢のカスタマイズを施した、バイクでありました。 

そう、「バイクでありました」なんですよ。 
もうすでに過去形です。 

その日に限って渋滞をしていて、 
気持ちが急いででもいたのでしょうか。 

普通にバイクを走らせていたつもりが、 
急に横から、白い車が近づいてきました。 

するとその白い車は、止まる気配もなく、 
スピードも緩めないまま、 
バイクを運転する、僕の左足にぶつかってきました。 

ぶつかるっと、思った瞬間からは、 
あたかもスローモーションのように、 
辺りが移り変わります。 

見ている人に取ってみれば、ほんの数秒くらいだったのかも 
しれません。 

僕にはながーい時間に感じるから 
事故って不思議です。 

ほんの数秒を、長い時間に感じる力というのが 
人間の脳の、真の潜在的な集中力なのかもしれませんね。 

左足に車のバンパーが当たります。 

僕は15mほどはねとばされました。 
空中ではコマのようにくるくる回転しています。 

そのうち地面にたたきつけたれ、 
地面でも慣性の法則でしょうか、ごろごろごろごろ転がり続けます。 

あ、そうそう慣性の法則といえば・・・、と脱線するのが 
かえるがおの特徴でございまして、 
関東では「慣性の法則」は「か」にアクセントをつけて読むんですよねぇ。 

九州で「か」にアクセントをつけて読むと、 
「感性の法則」という意味になって、何だか芸術ちっくになってしまいます。 

九州では平たく「かんせい」の法則といいまする。 
関東の人にしてみればな、何かが「完成」したと 
思われそうです。 

受験生を教えているときに、僕のクラスだけ 
子どもたちの発音が違うって、よく笑われましたよ。 
なつかしー思い出です。 

日本は広く、そして日本語は同音異義語が多くて 
おもしろいですねぇ。 

ということで、話は急に事故の現実に戻ります。 

車にはねられた僕は 
道にたたきつけられ、ごろごろごろごろと転がり続けた後、 
うまいことバウンドして、体が宙に浮き、 
最後は、バンっ、と両足でうまいこと着地して、 
ようやく止まりました。 

事故を目撃した人からすると、びっくりしたでしょうねぇ。 
車にはねられた人が、空中をを回転した後、 
すっくと着地したんですから。 

やっぱり運動神経には自信があるんですよぉなどと 
言いたい気分ではありますが、本当はほんの一瞬が 
スローモーションのように、感覚がとぎすまされていたので 
自然に立つことができたというのが事実です。 

ただし・・・ 
着地した後が、全く動けません。 

足を開いたまま、着地をしたかっこうのまま 
全く動けないのです。 

そのうち、事故を目撃したガソリンスタンドの人や 
車を運転していたおじいちゃんが 
僕に声をかけてくれました。 

「うわぁ」と。 

あのー、声をかけるのに、「うわぁ」はないでしょ。 
せめて「大丈夫ですか」ぐらいにしてほしいものです。 

でも次の瞬間、なぜ「うわぁ」だったのか 
自分でも理解ができました。 

血です。全身から血が出ていて、 
特に左足の出血がひどかったのです。 

見ている人からすると、血を流してる人を見たら 
そりゃびっくりしますよ。 
当の本人が見えないので、気づかなかっただけだったんですねぇ。 

運転していたおじいちゃんが話します。 

「ごめん、僕がよそ見していたから・・・」 

その言葉に目をやると、ちょうどそこはT字路で 
優先道路を走っていた僕に、 
おじいちゃんが一時不停止で合流してきたため、 
バイクの横の部分、ちょうど足にぶつかったみたいですねぇ。 

おじいちゃんの白い車は、そこに止まったままでした。 
僕のバイクはと目を向けてみると、 
体とは反対方向にとばされ、T字路の道ばたに激突。 

とてもかっこよかった自慢のバイクは、体積が3分の1ほどの 
鉄くずと化しておりました。 

自慢の元バイク(現鉄くず)を見やる、僕の視線が、あまりにもかわいそう 
だったんでしょうねぇ。 

おじいちゃんがたまらず、僕を見ながら言いました。 
「ごめんね、バイクはちゃんと弁償するから」 

内心、へこんではいたんですけど 
弁償してくれるといってくれてるから、 
まぁ、いいとしましょう。 

過ぎたことを、くよくよしたって、あのバイクが戻ってくるわけじゃ 
ありませんからねぇ。 

バイクの方が心配だったからでしょうか、 
確かに会話中も動けなかったんですが、 
体に痛みはありませんでした。 

そのうち救急車がやってきました。 

ガソリンスタンドの方が呼んでくれたようです。 

こんなときこそ、見ず知らずの方の、やさしさが身にしみます。 

救急隊員の方の手によって、僕はタンカに乗せられ、 
救急車で、病院に搬送されるのでした。 

でもその救急車は、なぜかどんどんどんどん、 
勤務先の方に近づいていくのでした。 

そういえば、今日はなんか予定があったような気がするなぁ、と 
消えゆく意識の中で、考えるともなく、考えておりました。 

そうだった、今日は「保護者会」だったと思い出すのに、 
そう時間はかかりませんでした。 

救急隊員の「げ、骨が出てるよ」と言う声が 
意識が遠のく僕の耳にも届いてきたのでした。