不動産屋さんの車に乗せられて
アパートを見に行ったところ
1件目はお○け屋敷みたいな
アパートだったのでした。
お○け屋敷に住むつもりは
残念ながら全くなく
ていちょうに断った僕は
2件目のアパートに向かいました。
2件目のアパートは
大きな道路に面したアパートのようです。
ひと目見た外見は普通のアパートです。
でもやっぱり安いだけあって
少々築年数がたっているように見えます。
外見は色を塗ってあるものの
屋根のところや、玄関の脇など
本当の色であろう黒い汚れた壁の一部が
見えていたことを僕は見逃しません。
なのにおねえさんったら1件目の時と同じように
そのアパートの古さに
おどろくわけでもなく
平気な様子で
ずんずん部屋の中に入って行きました。
部屋の中に入ってみると
1件目のお○け屋敷と比べて
少し狭いのがよくわかりました。
1部屋とキッチンが少々ありまして
キッチンには油でべとべとの
ガスコンロが1台置いてありました。
「このコンロはきたいなあ。」と僕が思っているのを
不動産屋さんのおおねえさんは知ってか知らずか
おねえさんたらまたのんきなことを僕に言います。
「よかったですねえ。
ここはコンロはついていないんですが、
前の人が置いていったみたいですよ。」
のんきなことを、
陽気な声で言っていました。
「こんなコンロ使えるわけないだろっ」と
つっこむこともなく
僕はおねえさんののーてんきさに
返す言葉もありませんでした。
ほんとにおねえさんたらラッキーと思っているのか
その本音が知りたくなっちゃいました。
部屋の中はとっても暗かったのですが
おねえさんがまるで自分の部屋のように
雨戸を開けると
とっても明るい光が差し込んできました。
やはり部屋は明るくなくてはいけませんと
前回のお○け屋敷を思いながら
感慨深くなって窓の景色を見たくりました。
そのまぶしいばかりの明るさから
窓の外はどんなすばらしい景色が広がっているかと
期待にわくわくしながら
窓の外の景色をのぞいてみると・・・。
するとそこには思いもしない風景が広がっていました。
思いもしない風景というと
一面の山だったり、びっしりのお墓だったりと
想像されるかもしれませんが
いちおう普通の景色が広がっていたんですよ。
珍しいものではありません。
ただの道です。
窓の外は
そこはもう道だったのです。
僕が顔を出したときに
ちょうどその道を
いったい何キロで走っているのかわからないくらいの
とっても遅い原チャに乗ったおっさんが通っていました。
きっとあのおっさんの原チャは
僕のチャリンコよりも遅いだろうという
すばらしい遅さです。
原チャのおっさんを見て
とっても力が抜けると同時に
「ここにもとても住めないなあ」と
決心を固めたのでした。
2件目のアパートも
無事(?)却下することをおねえさんに告げると
おねえさんは意外にも
「やっぱり。」と言うとにっこり笑いました。
自分でも「やっぱり住まないのね」と思うようなアパートを
何で僕にすすめるんでしょうか?
まあ、それが商売のきびしさではないのかと
ひとりで納得して
最後の3件目のアパートに向かいました。
僕としてはもう最後の3件目。
絶体絶命のピンチだと思っていたんですが
おねえさんはそうではないようです。
結構ごきげんで
まるで最初の2件を僕が断るのを
わかっていたかのようにお見うけします。
上機嫌なおねえさんは
運転しながら僕に話しかけました。
「次はとってもいいですよ。
なんてったって新築。
キャンセルが入ったから見れるんですよー。」
なんて言っていました。
3件目は42000円で
一番安いはずのなのに新築と言っています。
本当でしょうか?
3件目より高い1,2件目が
築うん十年だったのにもかかわらず
なんで安い3件目が新築なのか
わけがわからなくなりました。
まあとりあえず行ってみるしかありません。
高級車くらうんは
僕とおねえさんを乗せて
快調に速度を上げて
3件目のアパートに向かうのでした。
おねえさんスピードの出し過ぎです。
3件目のアパートにつくと
内心どきどきものです。
また黒い壁の
お○け屋敷だったら
これで物件は全て終了です。
また不動産屋さんをさがすところから
はじめなければなりません。
人生ゲームで言うならば
「台風で飛ばされスタートに戻る」です。
まったく右も左もわからない東京で
もう一度不動産屋さんをさがすのは
けっこうたいへんなことになりそうです。
そうなったら困るなぁと
いろんな思いが浮かんでは消える中
勇気をふりしぼって
3件目のアパートの外観を
僕は静かに見つめました。
すると
目にはおどろくことに
白い色が飛び込んできました。
壁の色です。
白は白でも真っ白です。
これまでの黒い壁とは全然違います
意外に思って全体を見てみると
たしかに小さいんですが
高原のペンション風の
飾りもあったりして
なかなか清潔感あふれるかわいい
アパートでした。
「ほんとにここですか?」
僕がおねえさんに確認すると
おねえさんは自信たっぷりに
「ここですよ。」と言っています。
僕は考えるまもなく
その白いペンション風のアパートを指さし
大きな声でお姉さんに告げました。
「ここに決めました。」
おねえさんは
「まだ早いですよ。中を見てください」と
笑って言ったのでした。