続・今日もやっぱりかえる顔

なぜか巻き起こってしまうまぬけな日常を、ひらがな中心のまぬけなテイストでお届けします。ときどき乃木坂46。

「肩を落として帰る理由」の巻

小さい子に好かれるってことは
いいことなんでしょうか?
最近悩んでしまうできごとがありました。

僕はなぜか知りませんが
いぬとちっちゃい子がよってきます。
電車の中でも視線を感じるなあと思っていたら
お母さんに抱かれた赤ちゃんが
じーっと僕を見つめていたなんてことが
けっこうあります。
まあ日常さはんじということです。

だけどどうして子どもがよってきたり
見つめられたりするのか
僕にはまったく見当がつきませんでした。
周りの人はちっちゃい子が
僕のことを同類項だと思っているんじゃないかとか
無責任なことを言うのですが
本当のところはわかりません。
赤ちゃんに聞いても
教えてくれなそうです。
その前に話せませんけどね。

先日その理由が少しわかるようなできごとがありました。
仕事が終わって自宅に帰りました。
仕事の帰りなのでネクタイを締めています。
ネクタイを締めると子どもって
あんまりよってこなくなるんですよね。
子どもにとってネクタイはあんまりいいものではなさそうです。

その日ももちろんネクタイを締めていたのですが
マンションのエレベーターで
マンションの住民の方と一緒になりました。

その方は若いお母さんで
ちっちゃい赤ちゃんを抱いています。
赤ちゃんはもう1歳ぐらいなのでしょうか?
何回か見かけたことがある子でした。

前回に合ったときには
エレベーターの気まずい雰囲気の中で
じーっと僕の顔を見続けたあげく
エレベーターからおりる際に
お母さんの肩口からバイバイをして
おりていきました。

今日も何かあるかなあとは思ったんですが
今日はあいにく子どもの嫌いな
ワイシャツにネクタイでした。
ネクタイを締めていると
子どもに評判がよくないのをすぐに思い出しました。
今日は見つめられることもなさそうです。

僕は安心してエレベーターに乗り込みました。
エレベーターに乗り込むと
予想に反してその赤ちゃんは
じーっと僕を見ているじゃあありませんか。
子どもの視線ってとっても一途で真剣で
きたないいよごれきった大人の僕には
まぶしいんですよ。
目をそらすしかありません。

何の目的もないのに
上の方に表示してある
現在の階数を見続けたり、
まが持たないから
次は扉が閉じるボタンを
用もないのにじっと見ていたりしました。

もう赤ちゃんは目をそらしているだろうと思って
赤ちゃんに目を移してみると
なんと赤ちゃんは
じーっと僕を見続けているじゃあありませんか。
こりゃたいへんなことになりました。

顔になんかついているんでしょうか?
だからじっと見ているんでしょうか。
ひょっとしてエレベーターに入ったときに
肩と肩がぶつかっちゃって
にらみをきかされているのでしょうか?
だったらこわいです。
けんかはかんべんです。
相手は赤ちゃんですけどね。

まあどっちにしろ
まが持たなくなってしまいました。
赤ちゃんがじっと僕を見続けている以上
僕に興味があるのは当然のことで
へんに違うところを見るのもまた
あやしいかぎりです。
赤ちゃんにもとっても失礼ですしねえ。
せっかく見てくれているんだから。

そう思っている間もずーっと赤ちゃんは
僕の顔をまぬけな顔で見つめているだけです。
ここは仕方ありません。
話しかけるしかないようです。
残念ながら赤ちゃんをしかとする
勇気は僕にはありませんでした。

でもよく考えてみると
そのまぬけ顔の赤ちゃんに
何か話しかけて
意味がわかるんでしょうか?
それとも
「あかちやぁーぁん、げんきでちゅかー」なんて
幼児語で話しかけなければいけないんでしょうか?
幼児語だけはかんべんです。
だいの大人がへんちくりんな声を出して
「~でちゅかー」なんて言ってるところは
恥ずかしくて人に見せられたもんじゃあありません。

うちの母親は
姉に初孫ができたからと言って
人目もはばからず
幼児語で話しかけていましたが
姉の子はそんなのわかるはずもなく
きょとんとしていました。
なんとまぬけな光景でしょう。
この状態だけはなんとしてもさけなければなりません。

では「どうもお元気ですか?」と
赤ちゃんに普通に話しかけても
「ごきげんうるわしゅう」なんて赤ちゃんが
返事をしてくれるはずもなく
本当に困ってしまいました。

どうやって赤ちゃんに話しかければいいんでしょう。
まぬけ顔した赤ちゃんは僕の目の前にいます。
もう逃げ出したくなる気分でした。

そこでなんと天の助けがありました。
赤ちゃんの手の甲にアンパンマンスタンプが
押してあったのです。

それを見てこれだと思いました。
これこそ話しかけるのにぴったりねたです。
自然に会話がはずんでいきそうです。
我ながらいいものをみつけちゃいました。

お母さんに聞くのがいいかもしれません。
その方が会話になりますもんね。
赤ちゃんに話してきょとんとされたら
せっかく勇気をしぼって話しかけた
僕の立場がありません。

僕は男らしく
ちょっとうわずった声で
おもいきって声をかけました。

(手の甲のアンパンマンスタンプを指さして)
「こ、これどーしたんですか?」
と僕が言うと
「保育園で押してくれたんですぅ。」と
感じよさそうな返事がかえってきました。

こんな小さい赤ちゃんなのに
保育園に通っているんですねえ。
かわいそうに、なんて思っていると
お母さんが赤ちゃんに話しかけました。

「アンパンマンだよねー」と。
なんとお母さんは赤ちゃんに
普通に話しかけていました。。
やっぱり幼児語に日本語を変換する必要はなさそうです。
うちの母親のまねをしなくてよかったと
心から思いました。

そのお母さんの反応に
赤ちゃんったら
あーだのうーだの言って
とっても喜んでいる様子でした。

よかった、よかった。
一時はどうなることかと思いましたが
僕の勇気の話しかけによって
結果的に赤ちゃんは喜んでくれたようです。

ほんとうによかったと思っていたときです。
エレベーターのドアが開きました。
うちの1階下の
赤ちゃんとお母さんがおりる階についたようです。
もうここらへんになると
大きな山を越えたので余裕があります。

よゆうのよっちゃんで手でも振ろうと思ったそのときです。
赤ちゃんが急に人差し指を僕に向けて
「アンパンマン!」と叫びました。

ちょっとまってください。
赤ちゃんはしゃべれたんですか。
その前に人差し指は思いっきり僕の方を向いていました。
そしてアンパンマンと。
だれがアンパンマンじゃあーーー。

ひょっとして僕なのでしょうか?
エレベーターにはもう僕だけしかいません。
赤ちゃんは確実に僕のことをアンパンマンと
言ったようです。

僕はぽつんとエレベーターの中で1人沈んでいました。
赤ちゃんは人の気も知らないで
追い打ちをかけるように
「ばいばーい。」と大きな声で叫び
去っていきました。

僕は声は出ず
赤ちゃんの後ろ姿に無言で手を振るのが
精一杯でした。

確かに僕の顔は縦長ではありませんよ。
うちの姉は「まんまる」と言って
からかいますが、
丸顔の僕から見るとですねえ
顔が長い方が普通ではないわけで・・・。
いえ、すみません。いいわけでした。

アンパンマンよりも目がぱっちりしてると
おもうんだけどなあ。
がっくし。
肩を落として玄関の扉を開けるのでした。