続・今日もやっぱりかえる顔

なぜか巻き起こってしまうまぬけな日常を、ひらがな中心のまぬけなテイストでお届けします。ときどき乃木坂46。

「10時台の電車」の巻

最近夜の街が騒がしくなっております。
世はまさに新歓シーズン。
新大学生、新社会人など週末にもなると
夜の街はごった返しております。

先日夜10時台の電車に乗りました。
そんなに遅くはなかったのですが、
よっぱらいのみなさんであふれていました。

僕が席に座っていると、前に立ったおじさんは明らかに
もうすでにできあがっているようでした。

おじさんは両手でつり革につかまると
腰をぐりんぐりん回して、まるでターザンごっこでも
しているかのようでした。

おじさんの顔をよーく見ます。
おじさんの目は半分開いています。
起きているようです。

しかしぐりんぐりんとつり革につかまって
腰の回転はなかなか終わりそうにありません。

もう一度おじさんの顔をよーく見ます。
確かに目は開いています。
よーく聞いているとかすかに寝息が聞こえてきます。
そうです。おじさんは目を半分開けたまま寝ていたのです。
だから腰をぐりんぐりんさせていたんですねえ。

あまりにも腰がぐりんぐりん回転するので
他の人にも迷惑だし、おじさんも疲れているだろうから
席を譲ろうと思い、席を立ちました。
そしておじさんに「どうぞ。」と声をかけました。

おじさんはゆっくり目を開けると、
じーーっと僕の方を見つめていました。
夜の電車の中で
どうして僕はおじさんと見つめ合わなきゃいけないんでしょ。
いやになっちゃいます。

どれくらい時間が流れたことでしょう。
次の瞬間おじさんはついに言葉を発しました。
「ウーーーーイ、ウイハイ・・・」
なんていみだろ?
まっーたくわかりません。
そうです、これはまさしくまったく解読不可能な
酔っぱらい語です。

なおもおじさんは続けます。
「オーエ、ウイーーーン、フヌッツ。」
なんと言ってるんでしょう。

おじさんは酔っぱらい語で僕に語りかけるだけではなく
しきりに僕の肩に触ろうと手を伸ばしてきます。
僕は知らないおじさんに、肩を触られたくないので、
もちろんよけます。

そうするとおじさんは腰ぐりんぐりんになりながら
なおも触ろうと手を伸ばしてきます。
おじさんはどーしても僕の肩を触らなければ
気が済まないようです。

とうとうかんねんした僕が肩を触らせてあげると
おじさんは安心した様子で言いました。
「い、いい、、、、よ。」

「いいよ?」
あの酔っぱらい語は席を譲ってもらうことを
おじさんなりに遠慮してたのです。
なぜ肩を触りたかったのかは謎のままですが、
それだけを言うとおじさんは
また元のように目を半開きにして
腰ぐりんぐりんの世界に戻っていったのでした。

何が起こったのか
目の前の状況がわからず、ただ呆然と
おじさんの腰ぐりんぐりんを見守るだけでした。

おじさんが腰ぐりんぐりんしている横で
またもやひとつの大きな事態が起こっていることには
そのとき僕はまだ気がついていませんでした。

よっぱらいのおじさんとのふれあいに気をとられると、
その隣でもまた変わった人が眠っていました。

その人は若い人で、携帯を片手に
手すりがあるはじっこの席で、最初は普通に眠っていました。

ちょっと変だなと思ったのは
携帯をしっかり手に持っていたことでした。
その携帯はランプがなぜか七色に光っていました。
きっと着信か何かあって
メールを打っている間に眠ってしまったのでしょう。

しかしよーくその若い人の顔を見てみると
やはりまた目が半開きです。
ということは、この人もぐりんぐりんのおじさんと同様の酔っぱらいです。
そう思うとかなり顔が赤いです。

新歓コンパで限界以上まで飲まされたのでしょう。
目は半開きで眠っているものの
いつゲロンパが発射されてもおかしくない状況のように見えてきました。

最初は普通に目が半開きで眠っていたのですが、
どんどん変化が現れてきました。
どんどん席からずり落ちはじめたのです。

最初は普通に、座席におしりで座っていましたが、
ずり落ちて、席に着いているのは腰の部分になりました。
考えても見てください、かなり無理な体勢です。

それでも足をピクピクしながら耐えて
目が半開きのまま、携帯も持ったまま、眠り続けていました。

その後も電車が揺れるたびに
酔っぱらいの若い人もずり落ちていきます。
次は背中で座席に座るような形になりました。

足は席の前で踏ん張ってブリッジ状態です。
足だけでなくブリッジ状態の全身がピクピクふるえています。
このころになると顔は明らかに苦痛にゆがんでいます。
しかーし目は半開きで携帯を持ったまま眠り続けます。

この状態も長く続きません。
また揺れるたびにずり落ちていきます。
とうとう席に着いているのは頭と首だけになりました。
足は前に出して踏ん張った格好で、もう完全にブリッジです。

全身は大きくふるえてきて
顔は苦痛にゆがんでいますが、それでも眠り続けています。

僕は思わず声が出ました。
「がんばれ、がんばれ。」
「がんばれ、よっぱらい。」

電車が揺れるたびに大きく体が傾きながらも
腹筋と背筋の力で何とかブリッジをし続ける酔っぱらいさんを
応援しなくてはいられなかったのです。

それでも酔っぱらいさんはがんばります。
きっとブリッジ居眠り選手権があったら
きっと日本記録で優勝です。

でも体力は確実に奪われていきます。
だんだんおしりが下がってきてしまいました。
もう限界です。これでは下の床にこけてしまいます。
もうぎりぎりという時、電車の中が大きく横に揺れました。
次の駅に到着したのです。

そのチャンスを酔っぱらいさんは逃しませんでした。
電車の大きい横揺れでうまい具合に、体が前に出ていたのが
横に滑り、座席に横向きに寝るような形になりました。

座席に横向きに寝る形になった酔っぱらいさんに対して
思わず言葉が出ます。
「いいぞー、うまい。」

それだけでなく酔っぱらいさんは
もう二度と落ちないように
自ら手すりに足をかけたのでした。

よかった、よかった。
これでもう2度と落ちることも、ブリッジすることもありません。
酔っぱらいさん安心して眠ってくださいね。
と思っていると、僕はふと考え込んでしまいました。

そういえば座席に横に眠ることはいいことなのでしょうか?
しかも靴を履いたまま、手すりに足をかけて眠っているのです。
なんだかわからなくなってしまいました。

携帯電話を開いたまま、目を半開きにして眠っている
酔っぱらいさんを見ながら僕は考え込んでしまいました。