続・今日もやっぱりかえる顔

なぜか巻き起こってしまうまぬけな日常を、ひらがな中心のまぬけなテイストでお届けします。ときどき乃木坂46。

「10時台の電車 その2」の巻

初めての続きものです。
よっぱらいのおじさんとのふれあいに気をとられると、
その隣でもまた変わった人が眠っていました。

その人は若い人で、携帯を片手に
手すりがあるはじっこの席で、最初は普通に眠っていました。


ちょっと変だなと思ったのは
二つ折りの携帯を開いて、しっかり手に持っていたことでした。
その携帯はランプがなぜか七色に光っていました。
きっと着信か何かあって
メールを打っている間に眠ってしまったのでしょう。

しかしよーくその若い人の顔を見てみると
やはりまた目が半開きです。
ということは、この人もぐりんぐりんのおじさんと同様の酔っぱらいです。
そう思うとかなり顔が赤いです。

新歓コンパで限界以上まで飲まされたのでしょう。
目は半開きで眠っているものの
いつゲロンパが発射されてもおかしくない状況のように見えてきました。

最初は普通に目が半開きで眠っていたのですが、
どんどん変化が現れてきました。
どんどん席からずり落ちはじめたのです。

最初は普通に、座席におしりで座っていましたが、
ずり落ちて、席に着いているのは腰の部分になりました。
考えても見てください、かなり無理な体勢です。

それでも足をピクピクしながら耐えて
目が半開きのまま、携帯も持ったまま、眠り続けていました。

その後も電車が揺れるたびに
酔っぱらいの若い人もずり落ちていきます。
次は背中で座席に座るような形になりました。

足は席の前で踏ん張ってブリッジ状態です。
足だけでなくブリッジ状態の全身がピクピクふるえています。
このころになると顔は明らかに苦痛にゆがんでいます。
しかーし目は半開きで携帯を持ったまま眠り続けます。

この状態も長く続きません。
また揺れるたびにずり落ちていきます。
とうとう席に着いているのは頭と首だけになりました。
足は前に出して踏ん張った格好で、もう完全にブリッジです。

全身は大きくふるえてきて
顔は苦痛にゆがんでいますが、それでも眠り続けています。

僕は思わず声が出ました。
「がんばれ、がんばれ。」
「がんばれ、よっぱらい。」

電車が揺れるたびに大きく体が傾きながらも
腹筋と背筋の力で何とかブリッジをし続ける酔っぱらいさんを
応援しなくてはいられなかったのです。

それでも酔っぱらいさんはがんばります。
きっとブリッジ居眠り選手権があったら
きっと日本記録で優勝です。

でも体力は確実に奪われていきます。
だんだんおしりが下がってきてしまいました。
もう限界です。これでは下の床にこけてしまいます。
もうぎりぎりという時、電車の中が大きく横に揺れました。
次の駅に到着したのです。

そのチャンスを酔っぱらいさんは逃しませんでした。
電車の大きい横揺れでうまい具合に、体が前に出ていたのが
横に滑り、座席に横向きに寝るような形になりました。

座席に横向きに寝る形になった酔っぱらいさんに対して
思わず言葉が出ます。
「いいぞー、うまい。」

それだけでなく酔っぱらいさんは
もう二度と落ちないように
自ら手すりに足をかけたのでした。

よかった、よかった。
これでもう2度と落ちることも、ブリッジすることもありません。
酔っぱらいさん安心して眠ってくださいね。
と思っていると、僕はふと考え込んでしまいました。

そういえば座席に横に眠ることはいいことなのでしょうか?
しかも靴を履いたまま、手すりに足をかけて眠っているのです。
なんだかわからなくなってしまいました。

携帯電話を開いたまま、目を半開きにして眠っている
酔っぱらいさんを見ながら僕は考え込んでしまいました。

 

※人探しWeb「あの人に会いたい!」内”きょうもやっぱりかえるがお"より転載しました。